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息を吐くと体重は減るか?

健康診断などで体重を気にする人は多いと思う。体重を測定するときに息を吐くと体重は減るか?、吸うと増えるか?

空気の密度と浮力

空気の密度は、1.3 kg/m3 である。人間の肺活量は、約 3 ℓ = 3.0 × 10-3 m3 である。
よって空気をいっぱいに吸い込んだ場合、その質量は
 1.3 kg/m3 × 3.0 × 10-3 m3 = 0.0039 kg = 3.9 g

3.9 g だけ人間全体の質量は大きくなる。
一方で空気を吸い込むことで、人間の体積も大きくなる。
アルキメデスの原理から、体積の変化分 × 周囲の空気の密度 = 3.9 g の浮力が増えるので、
結局、体重計で測定する重さは呼吸によって変化しない。
周囲のものを同じ密度のまま取り込んでも、質量が増えた分と同じだけ大気から受ける浮力が増えるので、変わらないのである。
(ただし圧縮するなどして密度が変わる場合は別)
よって息を吸っても吐いても、体重計の値は変わらない。

人体全体に作用する浮力

当たり前だが、息を全力で吐いても人間には有限の体積が残る。
その体積に対して作用する大気の浮力を計算してみる。
そのためには、人間の体積を知る必要がある。
風呂に水をいっぱいに貯めてから、頭までつかればあふれた量から人間の体積は求められる。
しかし実験が大変なので、質量から概算する。
人体の 6割くらいは水と言われているので、人体の密度を水の密度 1,000 kg/m3 と同じと仮定する。
体重が 60 kgの場合、体積は
 60 kg / 1,000 kg/m3 = 0.06 m3 (*)

よって、周囲の空気による浮力は、
 1.3 kg/m3 × 0.06 m3 = 0.078 kg = 78 g
大気中で体重計の示す重さは、真の体重(質量) より 80 g程軽い。
これは体重計の最小桁(0.1kg) 1目盛り程度の量である。

理解しにくい場合は、水中に沈めた体重計で体重を測るケースを想像してみるといい。
体重計にかかる荷重は減少するだろう。
程度の違いはあるが、水中で生じることと同じことが空気中でも生じている。

*余談
0.06 m3 = (0.39 m)3 なので、人体の体積は一辺約 40 cmの立方体に相当する。