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太陽の表面温度の測定・計算の方法

太陽の表面温度は、約 6,000 K と知られている。
絶対温度で 6,000 Kと書いたが、このくらい高温になると摂氏で 6,000 ℃ と書いてもさして変わらない。
ここでは、太陽光から太陽の表面温度を測定・計算する方法を列挙する。

スペクトルを用いる方法

光の波長に対する放射強度の分布の形状をスペクトルという。スペクトルの違いを人間は色の違いとして認識する。

スペクトルの形状から求める方法 (プランクの法則)

プランクの法則によると、絶対温度 T の黒体から放射される電磁波(光を含む)のエネルギーは、波長 λ ~ λ+dλ につき I dλ [W/m2] となる。
I = 2hc2 / { λ 5 (ehc/λkT - 1) }  [W/m3]

ここで、h はプランク定数、c は光速、k はボルツマン定数である。
2hc2 は定数なので、スペクトルの形状は 1// { λ 5 (ehc/λkT - 1) } で決まる。
太陽光のスペクトルを測定して、それにフィッティングするような T を計算すれば太陽の表面温度が求まる。
この方法は次のような特徴がある。
・スペクトル強度を絶対値で測定する必要がない。波長別の相対的な強度でよい。
・太陽光は大気や水蒸気などで一部の波長が吸収され減衰するが、フィッティング時にその帯域を無視することで影響を減らせる。

太陽と同じ色になるように基準光源の温度を調整する方法 (光高温計の原理)

これは上記のスペクトルの形状から求める方法と同じだが、スペクトルのフィッティングを人間の視覚で行う方法である。人間の目で行う零位法である。
太陽光と基準光源(電球のことが多い)の色が同じに見えるように、基準光源の温度(電球であれば電圧)を調整する。
同じに見えるようにするのは、であって明るさではない。
同じ色になった時の基準光源の温度が太陽の表面温度である。
基準光源の温度目盛りは、別の方法で校正しておく必要がある。
この方法は次のような特徴がある。
・分光器を必要としない。
・光高温計 単体では温度の直接測定はできず、別の方法で基準光源の校正が必要となる。

なお市販の光高温計では、太陽の温度まで測定できるものはない。
そもそも 3,000 K を超える測定用途は少ないので、他の測定方法でもほとんどない。

2波長の放射強度の比から計算する方法 (二色温度計の原理)

別に全波長のスペクトルを計測しなくても異なる 2波長の相対的な強度が分かれば、プランクの法則から絶対温度 T を計算することができる。
これが二色温度計の原理である。2色・2波長といっても線的なスペクトルでなく、それぞれある程度の帯域幅がある。
この方法は次のような特徴がある。
・スペクトル強度を絶対値で測定する必要がない。2波長の相対的な強度でよい。
・大気や水蒸気などで吸収される波長を避けることで、その影響を減らせる。

ピーク波長から計算する方法 (ウィーンの変位則)

プランクの法則によると、黒体放射のスペクトルはある波長でピークを持つ。
プランクの法則の式を波長で微分して、ピークとなる波長 λmax を計算するとウィーンの変位則が求まる。
λmax = b / T  [m]
b = 2.90 × 10-3  [K・m]

太陽光のスペクトルのピーク波長を計測して、上式で計算すれば太陽の表面温度が求まる。
この方法は次のような特徴がある。
・スペクトルのピーク波長だけを測定すればよい。
・ピーク付近はなだらかなので精度がでないことがある。

スペクトルを用いない方法

全波長のエネルギーの和から計算する方法 (シュテファン=ボルツマンの法則, 放射温度計の原理)

地球に到達する太陽光のエネルギー密度を測定して、太陽の表面温度を計算する方法である。
シュテファン=ボルツマンの法則によると、絶対温度 T の黒体から放射される単位面積当たりの電磁波のエネルギー(全波長分) I [W/m2] は次式となる。
I = σ T4  [W/m2]

ここで、ステファン=ボルツマン定数 σ=5.67 × 10-8 [W/m2/K4] である。
太陽の半径を Rsun [m] とすると、太陽全体から放出されるエネルギー E [W]は、
E = σ T4 × 4 π Rsun2 [W]

地球公転軌道上でのエネルギー密度 P [W/m2] は、地球の平均公転半径を L [m] とすると、
P = E / (4 π L2) = σ T4 × (Rsun / L)2 [W/m2]
整理すると、
T = { (P / σ) × (L / Rsun)2 }1/4

この太陽の表面温度の式には、太陽の半径 Rsun と地球の平均公転半径 L が含まれている。
太陽の半径 Rsun と地球の平均公転半径 L は、直接測定しにくい値なので、これを含まない式に変形する。
太陽の視直径(直径を観測した時の角度) θ [rad] は地上から観測できる値である。

θ が微小の時、θ ≈ 2Rsun / L と近似できる。これを用いると、
T = { 4P / (σθ2) }1/4

試しに P = 1.3 [kW/m2], 視直径 0.5 [°] = (0.5 * π / 180) [rad] を代入してみると、T = 5890 [K] となる。
この方法は次のような特徴がある。
・分光器を必要としない。
・太陽光のエネルギーの絶対値の測定が必要である。
・大気や水蒸気などによる減衰の影響は避けられない。